暗さが持っていけなかったもの — Still Whole | 3時間639Hz静けさの音楽
暗さは順番に持っていきます。薄いものから消え、最後まで残るのは自分のなかに明るさを持っている側です — 639Hz、ひとつの高さにとどまる三時間。
暗闇が持っていけなかったもの
森が暮れていくとき、先に消えるのは色だ。緑が黒くなり、茶色が黒くなり、しばらくすると何が何だか見分けがつかなくなる。それでも目に残るものがある。白い花が一輪、まだそこに見えている。
暗闇は順番に持っていく
暗くなっていく森をしばらく見ていると、すべてが一度に消えるわけではないとわかる。順番がある。薄いものから消える。葉の筋が消え、枝の輪郭が消え、最後まで残るのは、自分のなかに明るさを持っている側だ。
だからあの花が見えているのは、暗闇がそこを避けて通ったからではない。同じ暗闇が同じように降りてきて、それでも残るくらい明るかったというだけだ。639Hzについては、つながりと修復がよく語られる。壊れたものを新しく建て直す話ではなく、もとからつながっていた場所を見つけ直す話だ。
明るさは守るものではなく、残るもの
この花が冬のあいだ何をしていたのかは知りようがない。雨が降り、雪が降った、それだけだ。そのあいだ明るさを守ろうと努めたというより、ただ明るいままだった、と言うほうが近い気がする。
「守る」という言葉には力がこもっている。肩に力を入れて何かを押しとどめる絵がついてくる。けれどこの光景に、その力は見当たらない。白いものが白いままで、暗闇はそこまで届かなかった。人にもそういう場所がある。握りしめたものより、握らずに残っていたもののほうが、あとになって輪郭がはっきりしている。
三時間をひとつの場所に置くこと
この曲は三時間のあいだ、ひとつの高さにとどまる。始まった場所で終わる。何かが起きるのを待ちながら聴くものというより、かけたまま忘れるほうに合わせて作った。
忘れていて、しばらくしてから、部屋がずいぶん長いこと静かだったと気づく。そうなればこの曲は役目を果たしている。よい背景音は、たいていそういう形でしか気づかれない。
夜が長くなる季節にかけっぱなしにするといい。眠る前にかけて、そのまま流しておける。音はただ流れていく。
SUMMARU